宅建業の事務所と供託
2017.11.12更新
宅建業の「事務所」とは
今回は宅建業免許を取得する際のいわゆる事務所要件ではなく、宅建業者の「事務所の考え方」について解説します。
宅建業免許を取得しようとする場合は、登記簿に記載されている本店所在地を宅建業の「主たる事務所」としなければなりません。
会社によっては、登記上の本店と実際の本社機能とを別の場所にしていることがあります。
代表者の住所地などを便宜上本店としているようなケースです。
このようなケースでは、宅建業免許の取得に支障が生じてしまうことがあります。
登記上の本店と事実上の事務所(主たる事務所)とが異なる場合、宅建業の主たる事務所は登記上の本店と一致させる必要があるため、次のような対応をすることになるでしょう。
1.登記上の本店と事実上の事務所(本社)とを一致させるため、事実上の事務所へ本店移転登記をする。
この方法が現実的かもしれません。
便宜上の本店よりも事実上の事務所の方が、宅建業の免許要件(専任取引士の要件、事務所要件)をクリアしやすいはずだからです。
デメリットとしては、移転登記の費用(管轄内移転で3万円、管轄外移転で6万円の登録免許税+司法書士報酬)がかかることと、本店移転に伴い、税務署や年金事務所等に対する届出が必要になることが考えられます。
2.登記上の本店を宅建業の主たる事務所として免許申請するため、登記上の本店(代表者の住所地等)で宅建業の要件を満たす。
登記上の本店で宅建業の免許要件を満たすことと、登記上の本店のみで宅建業を営むことの両方が可能であれば、この方法を採るとデメリットを少なくすることができます。
しかし、このようなケースだと登記上の本店で宅建業の免許要件を満たすことはなかなか難しいと思われます。
例えば代表者の住所地で宅建業を取得しようとすると、専任取引士が毎日代表者の住所地に出勤することになりますし、事務所要件もなかなかクリア出来ない可能性が高いでしょう。
また、実際に登記上の本店では営業をせず、事実上の事務所(本社)のみで宅建業を営む場合でも、主たる事務所(本店)と従たる事務所(本社)の2つの事務所が必要となりますので、後に解説する供託金等が増えてしまうことがデメリットになります。
3.宅建業を取得するための会社を新設する。
もろもろ検討した結果、最終的にはこの方法を選択される方もいらっしゃるでしょう。
新設会社で事務所要件を満たすことと、専任取引士が新設法人に出向または転籍して常勤できれば、実現可能です。
デメリットとしては、設立費用(株式会社の場合で最低20万円強+司法書士手数料、合同会社の場合で最低6万+司法書士手数料)がかかることと、税務署等に対する各種届出等が必要となることが考えられます。
とはいえ、税務面の観点から新たに会社を設立する場合も考えられますので、総合的にはメリットになるかもしれません。
主たる事務所と従たる事務所
宅建業の「主たる事務所」は、必ず登記上の本店と一致します。
登記上の本店以外に宅建業の事務所を開設する場合、当該事務所を「従たる事務所」と言います。
実際に宅建業を営むかどうかは別として、常に登記上の本店は宅建業上の主たる事務所とする必要があります。
従って、登記上の本店以外の事務所(従たる事務所)でしか宅建業を営業しないとしても、当該従たる事務所を宅建業上の主たる事務所として取り扱うといったことはできませんので注意しましょう。
事務所が2つ以上(主たる事務所と従たる事務所が)ある場合で、事務所を1つの都道府県内に設置する場合は「知事免許」となりますが、2つ以上の都道府県に設置する場合は「大臣免許」となります。
例えば、東京都に主たる事務所がある場合で、従たる事務所を東京都内に設置しようとする場合は東京都知事免許のまま変更届で済みますが、従たる事務所を埼玉県に設置しようとする場合は変更届ではなく、大臣免許を取得する必要がでてきます(「免許換え」という手続きになり、免許権者が知事から大臣に変わります)。
供託金の金額
宅建業を始めるためには、免許がおりた後、法務局へ営業保証金を供託するか、宅建協会または不動産協会に加入して弁済業務保証金分担金を協会を通じて供託するかのいずれかをしなければなりません。
具体的な金額は次の通りです。
1.法務局へ営業保証金の供託をする場合
- ①主たる事務所=金1,000万円
- ②従たる事務所=金500万円(1事務所毎に積み増し)
2.保証協会を通じて弁済業務保証金分担金を供託する場合
- ①主たる事務所=金60万円
- ②従たる事務所=金30万円(1事務所毎に積み増し)
例えば、事務所が2つになると、法務局へ供託する場合は合計金1,500万円が必要となり、協会へ加入する場合は合計金90万円が必要となります。
ただし、協会へ加入する場合は弁済業務保証金分担金以外に、事務所毎に協会に対する入会金等が発生しますので、単純に1,000万円の代わりに60万円用意すれば開業できるというわけではありません。